コーヒー豆の賞味期限の謎。A社は1年・B店は1ヶ月・C店は1週間ってナゼ?

コーヒー豆の賞味期限。販売元によって様々です。量販店などで見られる安価なコーヒー豆は1年で設定しているケースもあれば、1週間程度としている自家焙煎店もあります。

いったいどういう事なのでしょうか・・?

コーヒーロースター(焙煎士)の視点からその謎に迫ってみたいと思います。


そもそも【賞味期限】とはどういう意味?

参考:農林水産省のHPより

賞味期限って?
『 ハム・ソーセージやスナック菓子、缶詰など冷蔵や常温で保存がきく食品に表示してあります。開封していない状態で、表示されている保存方法に従って保存したときに、おいしく食べられる期限を示しています。賞味期限内においしく食べましょう。ただし、賞味期限を過ぎても食べられなくなるとは限りません。 』

簡単に考えると賞味期限はおいしさが保たれる期限ということになりますね。また衛生的には猶予のある期限となります。

例えば、とある自家焙煎店が、うちのコーヒーは焙煎後1週間以内が最高に美味しい。1週間以内に飲んでほしいと切に願う場合は賞味期限は1週間となるわけです。

逆に量販店で安価で売られているコーヒーは、あくまでもコスト最優先でしょうから、一年経ってもこんな感じの味であれば良し。という判断であれば賞味期限は一年となるわけです。

販売元によって賞味期限が違うのはこういった違いのよるものということがお解りいただけたでしょうか。


スペシャルティコーヒーに限定した時の賞味期限

では、本当にこだわった自家焙煎店のスペシャルティコーヒーに限定した時の賞味期限はどうでしょうか?

参考:スペシャルティコーヒーとは – MORIFUJI COFFEE

A店の賞味期限は1週間。B店は1ヶ月。C店は3ヶ月。ここでもまちまちです。どの店も相当にこだわりを持ってコーヒーを提供しています。にも関わらずなぜ異なるのでしょうか?

考えられる要因は大きく3つあります。

1.豆のままで買ったか、粉に挽いたものを買ったのか。
豆のまま買って保存した方が香味は長持ちします。粉に挽いて販売した場合は豆のままよりも賞味期限を短く設定している場合があります。

では、どの店でも豆のまま買ったとして条件を同じにしてみます。

2.店主が提供したいと考える味の違い(感覚的な違い)
店主がうちのコーヒーの味といえるのは、焙煎後この期間までかな・・といった違い。

3.焙煎の違い(物理的な違い)
専門的な内容となりますが焙煎の違いについて以降の章で触れてみます。

例外として、特殊な保存状態(窒素充填・真空パック)などによって賞味期限を長く設定するケースもあります。


コーヒー豆の賞味期限は浅煎りと深煎りで違ってくる。

同じ豆でも浅煎りと深煎りでは香味やその持続性が違ってきます。コーヒー豆は焙煎が深い程コーヒー豆の表面に油分が染み出してきます。さらに焙煎してからの期間が経つほど油分の染み出しが多くなってきます。

この油分が空気に触れることによって油分の老化が起こります。ですから油分の染み出しの多い深煎りほど、どうしてもデリケートになりやすく賞味期限は長く設定しづらいと思います。一方、浅煎りの場合は油分の多くがコーヒー豆内部に密閉されているため、油分の染み出しが少ない状態となっています。

※深煎りでも焙煎のプロセスによって油分の染み出し方をある程度コントロールすることはできます。その辺はコーヒーロースターのテクニックですね。

参考:ロースト度(焙煎度)の8段階 – MORIFUJI COFFEE


コーヒー豆の賞味期限は焙煎機によっても違ってくる。

コーヒー焙煎機には大きく3つの形式(直火式・半熱風式・熱風式)があり、その形式の違いによって同じ豆でも出来上がる香味が異なってくることは知られていますが、それと同時に香味の持続性にも影響があります。

私は3タイプの焙煎機を実際に使ってきました。どうも・・直火式よりも半熱風式や熱風式の方が香味の持続性が長いように思います。おそらく熱風式は構造的に直火式に比べて豆に対して均一にカロリーを加えやすくムラが少ない。味も整いやすく焙煎後の変質も少ない。ということだと考えています。

参考:直火式・半熱風式・熱風式の違い – MORIFUJI COFFEE


コーヒー豆の賞味期限は焙煎のプロセスによって違ってくる。

それでは、条件をさらに同じにして考えてみましょう。

同じ焙煎機で、同じ生豆を、同じ焙煎度合いに仕上げるという条件の元、3人のロースターに自分のやり方で焙煎してもらったとします。普通に考えると同じ味のコーヒー豆がたくさん出来上がると思いますよね。

ところが見た目は全く同じでも、同じ豆とは思えないくらい香味やその持続性が異なることがあるのです。

いったい3人の何が違ったのでしょうか・・?

わかりやすく例えてみると、Aさんは強火でパーンと仕上げました。Bさんはとろ火でじっくり仕上げました。Cさんは初め強火でその後ゆっくり仕上げました。

お料理教室のようになってきましたね(笑)

見た目では3人が焙煎した豆の区別は付きません。しかしコーヒー豆内部の科学変化には違いがあります。結果として、それぞれ香味やその持続性が異なってきたのです。

このあたりになってくると相当突っ込んだコーヒーロースターでないと分からない世界ですが、実はこの部分に真実が隠されており、それぞれのロースターの企業秘密といってもよい核心部分なのです。


コーヒーロースターのマニアックな世界

ロースターの世界では一般的に、短時間焙煎は香味が強いが飛びやすく、時間をかけると香味は大人しいが持続しやすい。などとも云われています。確かに単純に考えればそういう傾向があるようです。

時間が短いのが良い悪い。時間をかけるのが良い悪い。という議論もたまに聞きます。しかしながら・・個人的にはですよ、単純に時間の問題ではないように思っています。

焙煎時の生豆へのストレス(カロリーや圧力)の与え方や逃がし方の問題なのではないかと。結果として短時間焙煎ほど急激に豆にストレスを与えやすく、長時間焙煎ではゆっくりとしたストレスのかけ方になりやすい。

ストレスがいけない訳ではなく、そもそも生豆へ適切なストレスを与えないとコーヒー豆を焙煎できないしあの香り高いコーヒーにはなりません。どの段階でどのようなストレスを与えたり逃したりするか。それによって香味も変わればその持続性も変わり賞味期限に違いが出てくる。そうゆうことではないかと僕は考えています。

コーヒー焙煎というのは豆を焼くという一見してシンプルな作業。シンプルにも思えるその中に多様さを秘めています。

コーヒーには100点というものは存在しない気がしています。だからこそ今日も世界中のロースターが100点のコーヒーとは何か?と自問自答を繰り返しながら日夜研究に励んでいるのだと思います。

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Tomomichi Morifuji

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