珈琲焙煎 意図的に生豆の水分を残す

珈琲焙煎機のドラムを直火式から半熱風式に変えたので、ローストプロファイル(焙煎の設定条件)の見直し作業を行っています。ローストプロファイルは、珈琲焙煎の進行状況における焙煎機の各種設定値(豆温度、排気温度、予熱温度、豆投入温度、中点温度、排出温度、火力、排気ブロワーの出力、排気ダンパーの開閉度、時間管理など)をグラフや一覧表にして記録し品質管理・向上の為に役立てます。

焙煎機が異なればローストプロファイルも当然異なりますし、同じ焙煎機でも直火式と半熱風式では異なります。またプロパンガスと都市ガスでも異なるし、北海道と沖縄でも異なります。さらに言えば全く同じ焙煎機でも若干の個体差があります。ローストプロファイルは、その一台にピッタリと合った設定でなければ意味がありません。誰かのプロファイルをそのまま試してもあまり意味はありません。ローストプロファイルは実際にその焙煎機を動かしながら試行錯誤し掴んでいくのが普通です。

焙煎人が100人いれば、100通りのやり方(ローストプロファイル)が存在します。仮に100人が同じ豆、同じロースト度合いで仕上げたとしても、それぞれ違う味になります。時には同じ豆とは思えない程違う味になります。私が珈琲専門店を歩き廻り同じ種類の珈琲を注文するのは、その店の個性を確かめ、焙煎方法、抽出方法などを想像するのが面白いという一面もあります。

「この珈琲は直火の味がする。」「焙煎時間が長めかな」「中点が高めかな」「85℃くらいの温度で抽出しているのかな」etc・・珈琲専門店にはそれぞれ個性があってしかりだと思いますし、さらに言えば、もっと好き嫌いが出るくらい個性を前面に出して行っても良い時代に突入していると思っています。コンビニの珈琲は安価で万人向けに作られています。対して専門店はそれとは明らかに違う個性や品質を出していく必要があると思うからです。

さて本題ですが、ローストプロファイルを直火式から半熱風式に置き換える過程のテスト焙煎で、予熱温度と初期火力を見誤り、予期せぬ中点温度となってしまった釜がありました。焙煎中もこの釜はダメだろうと思いながらも一応最後まで焙煎しましたが、直火式のときの経験側から見れば、明らかに初期温度に問題があり、豆の芯まで火か通らない水抜き不良でエグミ・渋みが出る失敗例だったのです。

釜出し後に豆を割ってみると、やや硬く水抜き過程が完全でない感があり、やはりダメかと思いました。この釜については捨てる覚悟でしばらく放置していましたが、反省材料として1週間保存しておくことにしました。だいたい水抜き不良の豆は3~4日ほどすると渋み・エグミが如実に出てきます。

3日後、恐る恐るこの焙煎豆を飲んでみると・・まだ渋み・エグミは出ていません。むしろボディーがあってキャラクターが前に出てきている。「うそだろ・・どうせ4日目以降に激変して水抜き不良が悪さをし始めるだろう」「だまされないぞ。今は3日目だ」

4日後、「昨日の味と差ほど変わらないな」「冬だからエージングが遅くなっているのかもしれない」

5日後、「うっ旨いなぁ~」「まさかね・・」

7日後、「こっ・・これは、本物なのかもしれない」

そのローストプロファイルで別の種類の豆を焙煎してみたところ、同じように甘味のあるボディーがあってキャラクターが前に出ています。旨いのです。オーバーローストによる苦味やきつい感じも無く、水分抜き不良による渋みエグミもない。ある意味、自分の求めている方向の味。直火式では、色々やってもそこまで出せなかったクリアーなキャラクターの風味が、ぐんと前にせり出した甘味のあるボディーに乗っています。

珈琲焙煎の教科書のようなものでは、焙煎前半の水抜き工程で「生豆の水分はキッチリ抜く」というのがセオリーです。しかしながら、このローストプロファイルでは完全に水分が抜けきっていない状態で本焙煎に突入していることが想像できます。今まで焙煎の基本と思われていた生豆の水分抜きを、キッチリやり過ぎることで、同時にそれ以外の成分も必要以上に揮発させ飛ばしてしまっていた。ということもありえるのかもしれません。

また半熱風式より直火式の方が水抜けの程度が極端になりやすいのかもしれません。直火式はコントロールがシビアだと云われる所以もその辺りにあるのかもしれませんね。半熱風式の方が水抜きをコントロールしやすいように思います。

焙煎前半の水抜き工程で意図的に生豆の水分を若干残すことで、味や風味にかかわる成分も残った状態になり、本焙煎での味や風味の醸成が高まる。ということもあるのではないでしょうか。水分の抜き過ぎはその他の成分も抜き過ぎてしまう。生豆の水分を抜き過ぎず、抜かな過ぎずのその狭間の絶妙なところに「スイートスポット」が存在するのかもしれません。

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Tomomichi Morifuji

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